阿倉染工が考える本物とは?
京都で型友禅が始まり約150年。
阿倉染工が考える「本物」とは、伝統的な技法と素材でつくられた製品であり、人の心を豊かにし世の中の役にたつ、次代につながる品物であることです。
阿倉染工の一反張り板場友禅
「反物(たんもの)」とは、日本の民族衣装である「着物」一着を作るために必要な単位を指します。着物は裁断寸法が決まっているため、生地幅約37cm×生地長さ約12mを「反物」「一反(いったん)」と呼びます。
「一反張り」とは、明治初期に発明された友禅染の技法のひとつで、幅約46cm、長さ6m50cm程の一枚板(「友禅板」と呼びます)の表裏に亘り反物(一着分)を裁断することなく「一反の生地を張り付けて染める(表裏合せて友禅板の有効長は13m)」ことから「一反張り」と呼ばれました。また、「型友禅」の技法は多岐に及ぶ総称(公称)に用いられることから、「友禅板」を用いる友禅技法を旧来から「板場友禅」と呼び区別して来た歴史的な業界用語です。
(おもしろ話:余談)
京友禅に関わる業者間で使われていた「表現」の中には ハ?と思うこともあります。「反物」に対して「着尺」と呼ばれることがあります。着尺とは「着物を作る必要寸法(要尺)」を意味すると言われることもあります。確かに、漢字の意味から間違ってはいないと思いますが、老練の友禅業者間では「総柄(同じ柄が連続した友禅柄)」を指しました。その意味で洋服柄は「着尺」です。着尺に対して振袖のように縫い合わせた時に柄を表現したものを「絵羽」と呼びます。手描友禅は「絵羽」です。板場友禅は着尺の友禅だったのでしょう。阿倉染工も「着尺」工場でした。
振袖生地を「四丈物(よじょうもの)」と呼びました。対して、着尺・反物は「三丈物(さんじょうもの)」と染工場関係者は呼んでいました。振袖は反物(着尺)では一着分を染めることが出来ません(袖が長い為に余分に生地が必要です)。そのため、「一着分の生地」が本来の一着分「反物(着尺)」寸法以上に余分に必要であったために「余剰(よじょう)」と呼んだのかも知れません。友禅板では余剰が必要なための名称かも知れません。振袖用を「よじょう」と呼んだため反物(着尺)寸法を「四丈」に対して「三丈」と表現したように思います。「丈」尺貫法で「1丈=10尺≒3m」なので、「3丈≒9m」になりますので反物(着尺)寸法とは明らかに異なるだけでなく「4丈≒12m」も矛盾しています。振袖は手描友禅のもので、板場友禅では振袖寸法は染められないことから、板場友禅で振袖を染め始めたのは着尺と振袖の需要が逆転するようになった戦後の事なのでしょう。
【伝統的な技法】
「地張り」
真っ直ぐに貼る技術が必要となります。
地張りは、「トロ糊」と呼ばれる糊を友禅板に刷毛で薄く塗り、生地を板に貼り付けます。
地張りは、「トロ糊」の乾燥具合を見計らって行います。この見極めが職人感覚で、乾燥しすぎると接着せず、早すぎると不良品となります。そのため、現在では多くが両面テープに変わっています。
「トロ糊」は、向かいの「洗濯糊(ワイシャツに使用してパリッとさせる糊)」に似たものです。
京友禅は、丹後ちりめん、長浜ちりめんを素材として使用します。「ちりめん」は水分を含むと縮む性質があるので、漢字で「縮緬」と書きます。
染色には水分が不可欠なので、両面テープの地張りでは縮んで柄が合いませんので、縮まないようにトロ糊で地張りをしました。今は縮まない「ちりめん」が使用されています。
「駒ベラ」
型友禅は、型置きした模様の上に染料液と友禅糊を混合した色糊を幅10cm程の小さなヘラで染めていきます。
この工程を「糊置き」と呼ぶことがあります。生地の表面に色糊と型紙を介して置くので呼ばれたのでしょう。
友禅糊は、相当の厚みで糊置きしますが、合成糊は非常に薄く次工程はには有利になります。
「ぼかし」の表現
現代の友禅ではスプレーガンを使用してぼかしを表現している工程がみられますが、阿倉染工では昔ながらの獣毛の丸刷毛で丸く円を描きぼかす技法を用いています。
【天然素材へのこだわり】
「友禅糊」
伝統的な京友禅で使用する糊は、ぬかを主な原材料とする友禅糊を使用します。
「友禅染料」
友禅染料は繊維の中でも絹・ウールなどの動物性繊維しか染められない性質があるため、阿倉染工では浴衣などは染めることはありません。
「同じものができひん」世界に一つだけの作品
京友禅を、絵画の世界で例えると、手描き友禅は有名絵画のような「唯一無二の芸術作品」。
型友禅は、版木で制作する「浮世絵」に近いものかと考えます。
型友禅はリピート生産が可能なため、手描き友禅よりも製作数量が多くなれば単価を安く制作できる利点があります。
しかし、そこには職人のみに受け継がれた伝統技法が注ぎ込まれ、唯一無二の作品が生まれることになります。